飲食店の「人件費目安は30%」は嘘?ヤバイ実態と対策を教える
こんにちは。
大阪で、行列の出来るラーメン店「人類みな麺類」など、6つのラーメンブランドを運営している松村貴大(@jinrui_mina_men)と申します。
ラーメン屋以外にも、「焼き肉屋」「大学の食堂」などを運営しています。
▼人類みな麺類▼
飲食店開業で頭を悩ませるものの一つが「人件費」。
飲食業はサービス業、つまり「人」が大きく影響するため、飲食店経営をする上で「人件費のコントロール」は重要です。
このページでは、そんな飲食店における人件費について
- 売上比率30%で本当に良いのか?
- そもそも「人件費」とは何を言うのか?
- 飲食業界の人件費を巡るヤバイ現状
- どのように削減していくべきか?
という観点から解説していきます。

繁盛店を創る上で「人」の要素は大きいと考えています。
大切なお話を詰め込んでいますので、ぜひ最後までご覧ください!
「人件費の売上比率は30%」は本当?なぜ30%なの?
飲食店において、『人件費は売上の30%以内に抑えましょう』とよく言われます。
では『これが妥当なのか?』と言われると…
「全飲食ジャンルを総合的にみた場合の目安値」としては妥当だが、「飲食ジャンル別」に見れば妥当とは言えない
というのが結論です。
「30%」はどこから出た数字か?
『では30%という数字はどこから出たの?』というお話ですが、これは「FLコスト比率は60%以内に抑えよう」という話から一人歩きし始めた数字です。
まずFLコストとは、
- 「F」=Food=食材原価
- 「L」=Labor=労働=人件費
つまり「食材原価と人件費」を指します。
そしてこの「食材原価+人件費」を60%以内に抑えようというのが、飲食店経営における一般的な指標として使われています。
『なぜ60%以内なのか?』と言うと、「家賃や光熱費など他の経費を含めた場合に、FLコスト比率が60%以上だと利益が出にくいよ」ということですね。
そして、この「60%」と言う数字からざっくりと
- 人件費:売上に対して30%
- 食材原価:売上に対して30%
という数字が出てきています。
だから『飲食業は人件費は30%!原価率も30%!』と言われるのです。
飲食ジャンルによって「理想のFLコスト比率」は違う
しかし注意すべきは「飲食ジャンルによって理想のFLコスト比率は違う」ということです。
たとえば焼肉屋は一般的に「人件費を抑えられる飲食ジャンル」です。
なぜなら肉を切って仕込んでおけば、あとは盛り付けて提供するだけであり基本的にはお客さんが調理(焼く)してくれるからですね。
なので人件費比率が20%を切っているお店も珍しくありません。
一方で人件費が掛かるジャンルと言えば、イメージしやすいのが「ガールズバー」でしょう。
お客さんに対する従業員比率が高いため、必然的に人件費が高くなります。
ですが原価率が低い「ドリンク」の提供が基本なので、商売が成り立つのです。
つまり業種によってFLコストの比率は変わるため、30%というのはあくまでも「目安」として参考にすべきです。
なお家賃比率が高い場合は、「FLコスト比率60%」という数字を守っても利益があまり出ない可能性だってあります。
もしも『なんで人件費と原価で60%以内に抑えないといけないの?』と疑問をお持ちでしたら、以下も参考にしてみてください。
「飲食ジャンルごとの理想のFL比率」や「60%がなぜ妥当なのか?」という点を解説しています。
関連ページ
>>FLコスト・FL比率がパッと分かる!行列店オーナーが図解します
人件費に「含まれるもの」に注意せよ!
人件費には、「給料」以外にも以下のようなものが含まれます。
- 賞与(ボーナス)
- 役職手当などの各種手当
- 社会保険料
- 福利厚生費
- 通勤手当
- 社宅費
もちろん「正社員なのかアルバイトなのか」や「どのような条件の元で雇用関係にあるのか」によっても含まれるものは変わってきますが、ざっくりと上記のようなものが含まれていると考えましょう。
法人化していれば「社会保険への加入」は必須ですし、個人事業主でも常時5人以上の従業員が働いている場合は「社会保険への加入」が義務です。
※飲食業は5人以上でも「任意適用」です
そこで、もしも「社会保険の適応がある」という前提で計算するならば、ざっくりと「給与×1.16」で計算すると良いです。
仮にボーナスが年間4か月分あるのであれば、それも加えた上で1.16倍してみましょう。
(例)社会保険も加えた給料
月給25万円 × 16か月(4か月はボーナス) × 1.16 = 464万円
上記計算には「交通費」は含まれていませんので、そのあたりの考慮も必要です。

『想像以上に掛かるな…』と感じられたのではないでしょうか。
単純に「月給」だけで計算していると『想定より利益が残らない!』ということが起こり得ますので、シミュレーションはある程度しっかり行いましょう。
人件費に関する「ヤバイ実態」を教える…
飲食業界では「人件費の高騰」に頭を抱えている経営者の方が多いと思います。
では「なぜ人件費が高騰しているのか」というと、人手が足りていないからですね。
少子高齢化により、もともと「労働力人口(15~64歳)」は大幅に減少傾向にあります。
そんな中で、飲食業は一般的に「長時間労働で仕事がハード・給料が安い・時間が不規則」というネガティブな印象を持たれがち。
そのため一般的な水準で求人募集を掛けても、なかなか人が集まらないのが実態です。
実際、「有効求人倍率」は1.0を上回り続けています。
これは「就職先を求めている人」にとっては有利な状況ですが、「求人側(経営者)」にとっては「人手の奪い合い」となっている状況。
さらに「最低賃金」は年々切りあがっており、令和元年10月発行の値は以下の通り。
最低賃金(令和元年10月発行)
- 東京:1,013円
- 神奈川:1,011円
- 大阪:964円
- 愛知:926円
- 埼玉:926円
- 千葉:923円
- 全国加重平均額:901円
※参考:厚生労働省
このように特に都心部では、アルバイトを雇うにしてもお金が掛かりますね。

『そもそもなぜ飲食業は給料が低いのか?』と言うと「“安くて旨い” が当たり前」となっている状況があるからです。
そのため、しっかりと「差別化」を図れなければ長く存続させるのは難しい状況です。
「人件費の削減」を慎重にすべき超重要な理由
「人件費のヤバイ実態」をお伝えしましたが、とは言え闇雲に「人件費削減」へ舵を切るのは危険です。
このあと説明していきますが、人件費は適性な水準で維持できるのが理想。
その理由は大きく2つ。
- サービスレベルが低下して、客離れを起こす可能性がある
- 労働環境の悪化から、逆に業績が落ちる可能性がある
「人件費の削減」を慎重にすべき超重要な理由1.サービスレベルの低下により客離れを起こす可能性がある
「人件費を削減する」=「サービスレベルが低下」=「客離れ」に繋がります。
具体的には、以下のようなサービスレベル低下が考えられます。
- なかなか料理が出てこない/注文を取りに来ない
- バタバタしてて店内が落ち着かない
- 忙しいがゆえに物の扱いが雑になる
- 料理の説明が雑になる
- 提供タイミングが悪い
- 新人教育が間に合っていない
- オーダー間違えがおこる
- etc...
さらにこれらサービスレベル低下により、「客離れ」も起こり得ります。
以下は、以前に697人へアンケートした結果です。
- 味が美味しくても、「不快な接客」ならもう行かない
⇒82%
- 味が普通でも、接客態度が良ければその後も通う
⇒67%
上記では「接客」というひと言に集約していますが、これは「サービス全般」を指しています。
つまりいくら「味」に磨きをかけていたとしても、「接客(サービス)」が悪ければリピート率が下がるのです。
逆にたとえ「味が普通」であっても「接客が良ければ通う」という声も多いです。
今の時代は「美味くて当たり前」という前提があるため、味だけで勝負するのではなく、接客でお客さんの心を掴めるとリピーター獲得の可能性が高まります。
697人の答えから分かる「接客」
>>リピート率が驚異の70%に!あなたが気づいていない「不快にさせる接客」と「また来たい」と虜にする最強の接客術
「人件費の削減」を慎重にすべき超重要な理由2.労働環境の悪化から、逆に業績が落ちる可能性がある
人件費の割合を削減しすぎると、業績の低下に繋がる可能性があります。
まず上でも説明したとおり「サービスレベルの低下⇒客離れ」という単純な理由が一つ。
もう一つは従業員の「モチベーション低下」および「離職」です。
理不尽な「給料の大幅カット(ボーナスカットも含む)」を行えば、従業員のモチベーションはダウンしますよね。
「サービス(接客)が大切」なのは既に説明した通りですが、その点で悪影響に繋がります。
また人件費の削減により「客数」に対して「従業員数」が足りていなければ、必然的に「一人当たりの仕事量」が増えますので労働環境が悪化します。
そのことから「離職率」が高まる可能性も十分あります。
従業員がいなければ店は縮小させざるを得なくなり、さらに「従業員募集」にも広告宣伝費が掛かります。
このような結果として「業績の低下」にも繋がるのです。

「飲食業=サービス業=人」だと私は考えています。
もちろん「無駄」は省いた方が良いですが、利益を出すために必要以上に削ることは、長期的に見れば避けた方が無難だと思います。
「無駄」を調べられる「指標」がありますので、このあと紹介します。
人件費を管理するための4つの指標!
このページでは「人件費の売上比率」を題材としていますが、大切なのはそれだけではありません。
それ以外にも指標がありますので、ここでは「人件費を適切に管理するための4つの指標」を紹介します。
1.人事売上高
「労働時間1時間において、売上がどれくらい得られているのか」を出します。
1日の売上 ÷ 1日の労働時間(社員合わせた全スタッフ)
この数字が5000円以下であれば「従業員が多すぎる」という一つの目安になります。
2.労働分配率
労働分配率とは「粗利に占める人件費割合」のこと。
粗利とは「売上」から「食材原価」を引いた利益のことであり、いわゆる「あなたのお店が産み出した付加価値」です。
この付加価値に対する人件費の割合を出します。
人件費 ÷ 粗利 × 100
基準値は40%以下です。
関連ページ
>>【中学生でも分かる】粗利とは?計算方法と粗利率の意味・重要性
3.労働生産性
労働生産性とは「1人あたりの生産性(どれくらい利益をあげたか)」を測る指標です。
粗利 ÷ 換算人員(従業員数)
基準値は500,000円とされています。
つまり簡単に言えば1人あたり50万円の粗利を出してればOKということです。
繰り返しになりますが、粗利とは「売上 - 食材原価」のことです。
4.平均時給
社員・パート・アルバイトすべてを含めた場合の、一人1時間の時給のこと。
総人件費 ÷ 全員の労働時間の合計
都心部と地方では水準が異なりますが、だいたい1200円以下が理想とされています。

すべての指標を使う必要はないと思いますが、人件費比率が高いのであれば日々の業務に取り入れてみましょう。
Excelに式を入れておけば、簡単に算出できるようになります。
人件費を削減する本質は2つに集約される!
では最後に「人件費の削減方法」についてです。
削減する本質的な部分は
- 教育により一人ひとりの生産性を上げる
- 設備面を改善して生産性を上げる
という2つですが、大前提としての『無駄がないか?』という部分から説明します。
大前提として…「人件費に無駄がないのか?」を確認する
上で4つの指標を紹介しましたが、これらを駆使して「無駄」を省くのが「人件費削減」以前にある大前提。
人件費は「固定費」ではなく「変動費」であるということを念頭に、日々の人件費における無駄を洗い出しましょう。
シフトに対して人件費は予算通りに組まれていますか?人件費の予算を出すには、そもそも売上の予測も必要です。
飲食店はブランドが強くなれば(知名度が上がれば)、天候も関係なくほぼ売上は高水準で安定します。
しかしブランド力がまだ弱い場合は天候一つで大きく売上が左右されますので、売上予測と人件費管理はしっかり行いましょう。
人件費の削減方法1.教育により一人ひとりの生産性を上げる
本題の「人件費削減」の一つ目です。
まずは従業員一人一人の「生産性」を上げることを考えましょう。
「生産性」という言葉が難しく感じるかもしれませんが、カンタンに言えば「利益をどれだけ上げられるか」ですね。
たとえば、
- ぼぉーっと立ってるだけのアルバイト
- 主体的にドリンクのお代わりを聞いて回るアルバイト
がいたとすれば、圧倒的に後者の方が生産性が高いですよね。
また、
- 皿洗いのスピードが速い
- 肉をキレイにスピーディに切れる
- ドリンクの注文を間違わずに素早く捌ける
- 片付けが早い
といった「速さ」も、当然「回転率」や「お客様満足度」という意味で「生産性の高さ」に紐づきます。
補足ですが、これらによって
- 売上が上がることで「売上に対する人件費比率が下がる」
- 従業員のパフォーマンスが上がることで「無駄な人件費を削減できる」
という2つの意味で「人件費削減」に繋がっています。
言葉が悪いかもしれませんが仕事が「出来る人」「出来ない人」は当然います。
しかし最低限のマニュアルを作り、しっかり教育できていればある程度の水準には高められるでしょう。
人件費を無駄にしてしまうか否かは、意識の問題です。
たとえば「利益率10%」の場合、1万円の売上でやっと1000円の利益。
多くのリスクを背負って開業した上での「1000円」の利益と、アルバイトが1時間働いて得た「1000円」の重みは違うハズです。
もちろん経営者・社員・アルバイトそれぞれの立場や責任がありますが、闇雲に人件費を払うのではなく、従業員全体で生産性を上げる努力をしましょう。
クレームをもらうために人を雇うのではなく、お客様に喜んでもらうために人を雇いましょう。
「生産性を上げるちょっとした工夫」は以下でも解説しています。
関連ページ
>>飲食店で調理師免許は不要だが、繁盛させる上で必須なモノを教える
人件費の削減方法2.設備面の改善により生産性を上げる
二つ目の方法は「設備面を改善する」です。
たとえば「水」をセルフに変えれるだけでも、従業員の「労働量」は削減できます。
キャベツの千切りは「業務用スライサー」で一瞬ですし、食洗器を入れれば「人件費」だけでなく水道代・手袋・洗剤の節約にも繋がるでしょう。
また「皿の配置・食材の配置」によっても作業効率は大きく変わります。(これらも設備面の改善に含まれます)
ただし生産性を上げるつもりが「下がってしまった」というケースもあり得ます。
分かりやすいもので言えば、「食券機」を導入すれば
- 釣銭の渡し間違いが減る
- レジ業務が減るので人員が削減できる
- オーダーミスが起こらない
- 釣銭を触らないので、厨房の人間であれば手を洗う必要がなくなる
などの理由から生産性があがる可能性があります。
しかし一方で、以下の様なデメリットも潜んでいますので、設備面での改善はメリット・デメリットをしっかり見極めましょう。
- 追加オーダーは通りにくくなる(客単価は落ちる可能性がある)
- 顧客との接点が減るので、サービスレベル低下の懸念がある

大切なことなので繰り返しますが、サービスレベルが落ちないことを前提に、従業員の過不足をしっかり管理することが大切です。
その上で「従業員の生産性UP」と「設備面改善での生産性UP」によって人件費を削減しましょう。
まとめ
飲食店の「人件費」について説明しました。
長くなりましたので、最後に簡単にまとめてみます。
人件費比率30%について…
- 30%という数字は、「全飲食ジャンルを総合的にみた場合の目安値」としては妥当だが、「飲食ジャンル別」に見れば妥当とは言えない
- 「FLコスト(食材費+人件費)を60%に抑えよう」という一般的指標から、食材費30%・人件費30%という数字が目標値として言われるようになった
- しかし「飲食ジャンル」によって理想の「FLコスト比率」は異なる。たとえば焼肉は食材費40%・人件費20%くらいが一般的と言われている
「人件費」に含まれるものに注意
- 人件費には「ボーナス・社会保険料・通勤手当」なども含まれる
- 社会保険を適応する場合は「給料×1.16」くらいの支払いが発生すると考えていた方が良い
飲食業の人件費における実態…
- 飲食業は「給与が低い」ことにより人手不足状態であるが、「安くて旨い」が当たり前の時代なので、なかなか基本給をあげて求人できない
- つまり求人を掛ける場合は、相場より少し高めにしなければ人が来てくれない(人件費の高騰)
- 最低賃金も年々切りあがっているため、アルバイト雇用にも費用がかかる
「人件費の削減」を慎重にすべき理由
- サービスレベル低下から「客離れ」を起こす可能性がある
- 理不尽な給与カットは従業員の「モチベーション低下」に繋がる
⇒サービスレベルダウンや離職に繋がる
- 客数に対して従業員数を少なくした場合、一人当たりの仕事量が増えて労働環境が悪化する
⇒サービスレベルダウンや離職に繋がる
人件費を削減する本質は2つ
- 大前提として「シフトに無駄はないのか」しっかりと日々チェックすること
- 教育により一人ひとりの生産性(利益を上げる力)を引き上げること
- 設備面の改善でも人件費は削れる
このページで説明した「FLコスト」については、以下のページでも詳しく説明しています。
>>FLコスト・FL比率がパッと分かる!行列店オーナーが図解します
また、以下の記事では「繁盛店を創り上げる上で大切な要素」をたくさん説明していますので、ぜひご一読ください!
開業する以上、気になるであろう「お金のお話」は以下をどうぞ。
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